なんたってメモだから

ネタをめもる場所のはずが愚痴の吐き出し場所と化す。

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途中
 彼は黙々と歩いた。
 私も黙々と歩いた。
 歩きながら思った。
 今しか無い、と。
「あの……」
 思っていたよりもか細く、消え入るような声で聞こえるかどうか不安だったが、幸い彼には伝わったようで、彼は足を止めてこちらを見た。
 私は彼が口を開く前に言った。
「倒れた時……だけど、ありがとう」
 その台詞を聞いて彼は口を開いたが、彼より先に私は声にする。
「先程の事だが、……すまない」
「先程ってのは、首絞めたことか?」
 首なんて絞めたっけ? と思考をめぐらせると、薄ぼんやりとその時の情景が思い浮かぶ。
 違うと言いかけていたのを慌てて言いなおす。
「違わない、けど……。それもある。でも、私が謝りたいのは、剣を向けたことだ」
「ふぅん」
 無関心、とまでいかなくとも、どうでもいいような返答。表情もさして変わらない。
 納得出来なかったのが顔に出たようで、
「別に気にしてないからな」
 と、言い訳じみたことを言った。
「そう、か……」
 もう少しだけ腹が立っていたら、私は彼を殺していたに違いない。
 それだけに、罪悪感のようなものを感じる。
 けれども彼は気にしていない。なら、私も気にすることはない。
「……なら、良いのだが」
 そう自分に言い聞かせることにした。
 彼は私の言葉に答えるように頷いて、また歩き出した。
 私はその後に続いた。
 歩くにつれ、美味しそうな香りが溢れてきた。

 ******

「いやぁー、良かった、良かった」
 申し訳無いことをしたこと。治療してくれたことにとても感謝していること。
 私はそれを素直に述べると、リツキはカチカチに強張らせた表情を緩めた。そのあからさまな変貌は、何だか笑えてくる。
「もう、俺、ほんっとどうしようかと思ったんだぜ?」


| 15:15 | 新しい世界で | - | - |
ヒルネノチメシ
 白猫の体温の優しさにまどろみながら、私はごろりと寝転がった。
 何だかひどく疲れた。よくよく考えれば戦の後だったし、その後全力疾走してたし、しかも傷だらけだし……。疲れるのも無理は無い。
 そしてその疲れからか、私は寝ていたようだ。
 気づいた時には日が落ちているようで、部屋の中は暗かった。
 まだ頭が働かない。脳味噌はまだ寝ている。けれどもなんとなく、起きなければと思う。その思いからか、上半身を腕だけで起こし、何だか良く分からない格好で止まる。起き上がった拍子に、腕の中で寝ていた白猫がごろりと転がった。猫の瞳もふにゃりとしていて、まだ寝ぼけ眼だ。
「なぁぁん」
 とろんとした瞳のまま、猫は私に甘えてきた。今度は足でなく、体重を支えている両手の右側に体をこすり付けた。
「……ん」
 きちんと座りなおし、白猫を撫でてやると猫は嬉しそうに目を細めた。今にもまた、眠りにつきそうなほど幸せそうな顔をしている。
「……変なの」
 思い返せば私は彼女に酷いことをしたというのに。警戒心というものが欠落しているのだろうか?
 でもそれが嬉しかった。
 目をつむってしまうほど細めている猫につられてか、私も目を細めた。
 何の前触れもなしに、がた、と戸が開けられる。私は驚いて開けられた戸の方を見る。
「……やっぱ、いるじゃねぇか」
 ぶすぅとした表情で、私を此処に運んだヒセンという男が言った。彼は遠慮という言葉が本当にこの世にあるのか疑問を持たせるほどの足取りで部屋に入り込み、私の腕でまどろんでいた白猫を掴み上げた。
「律樹の奴が慌ててたぞ。何処にもいない、って」
「なぁぁ……」
 しゅーん……と耳を垂れ下げ、弱弱しい声で猫が鳴く。それを確認してから、男はぽいと猫を放り投げ、「飯の時間だそうだ」と言った。なぁぁ! と猫は叫ぶように鳴いて、トタトタと部屋を出、廊下へと消えていく。
 私の脳味噌はまだ眠っていたのだが、この状況がかなり気まずい事はしっかりと確認できた。男は座っている私から三十センチほど距離を置いて立っている。最初は猫の方を見ていたが、それがいなくなった今、彼はこちらを向いている。
「ほら、行くぞ」
 彼はそう言う。
「……?」
 寝ぼけた頭には、私が何処へ行くか想像は出来ない。なので、自然と首が傾く。
「飯だ、と言っただろうが」
「あれは猫の話ではないのか?」
「両方、って所か。律樹は、白銀の事を一番人らしく扱うからな。食事は一緒にとるんだよ。だから、お前も飯の時間だ」
「……ふぅん」
 私はそう頷いた。
「お前寝てたのか? それとも単に弱ってるだけか?」
「どういう意味?」
「会話にキレが無いというか、妙に大人しいというか、言葉の受け答えがいい加減というか」
「眠いだけだ」
 私はそう言って、立ち上がった。
「歩けるか?」
「歩ける」
「そう言って倒れたのは誰だったか」
「私だ。が、今度は平気だ」
 悔し紛れにそう言い切ったが、私の足取りは危うい。ふらりと体が傾くと、
「無理するな」
 そう言われながら、腕を掴まれた。
「無理……ではない」
「なら、何だ?」
「…………見栄」
「見栄を張るような相手ではないだろうが」
 それはそうだけど。
 いやでも、ここで「無理、歩けない」とでも言えば確実に、二の舞だ。
 二の舞だけは避けたい。
「別に気にしなくていいだろう? お姫様抱っこぐらい」
 お姫様抱っこ。
 お姫様抱っこされていたのだ。
 そして、今、また、
 お姫様抱っこされようとしている。
 屈辱!
 私は顔中が熱くなるのを感じた。
「き、気にしなくて良いとか言うな!」
「はぁ? 気にする必要あるのか? 怪我人なんだから仕方ないだろうが」
「仕方なくない!」
 私の声に、男は「んー……」と困ったような声を上げた。けれども顔は全然困っていない。平然としている。
「……まぁ、歩けるなら、俺が運ぶ必要はないな」
 私は動揺からか言葉が上手く出てこず、それでも賛成の意味を込めて頭を縦にブンブンと振った。
「なら、ついてこい」
 男はそう言って、歩き出した。
 私は転ばないように気をつけながら、その後に続いた。
| 12:34 | 新しい世界で | - | - |
アナタハアンナニモツメタイノニ
 残像。

 黒い髪の
 優しい笑顔の

 大好きだった人の

 残像。

 消したくは無い。
 けれど、
 やり直したい。

 残像。

 取り戻したい
 取り戻せない

 残像。

 幻のように儚く
 幻よりも、儚く

 消えてしまいそうなほど

 遠く、

 冷たい、


 残像。


 ******

 
 目が覚めると見たことのある天井。
 思い出したくなかった残像を見てしまった私は、いつの間にか涙を流している。
 頭の中身は相変わらずぼぅとしていたものの、先程よりも僅かながらだが意識は鮮明だった。
 横になっていた体を起こし、手の甲で涙を拭った。


 リツキといったか。
 傷の手当てを受けただろう部屋。
 先程と違うのは、私の傍らに鎧も剣も置いていない所。
 先程と同じなのは、この部屋には私しかなく、そして私は傷の手当てをうけていた所。
 傷口からにじみ出た血でべっとりと湿っていた包帯は、真っ白とまではいかないものの、白色をしていた。
 倒れた後の記憶は無い。
 だから多分、あの男に運ばれたのだろう。
 ……………。
 屈辱。
「なーぁ」
 猫の鳴き声(多分あの時の白猫のものだろう)が聞こえ、木の扉を引掻いているのか、ガリガリとガタガタが混じった音を出している。
「なー」
 それが止んだと思ったら、おねだりでもするかのように声がした。
「…………」
「なぁー」
「…………」
「なぁぁぁん」
 甘えるように発する声に負け、私は扉を引いた。
 予想してた通り先程の白猫がおり、目が合うと嬉しそうに尻尾を振った。
「なぁぁぁ!」
 キラキラと瞳を輝かせて、白猫は私の足に体をこすりつける。
 けれども私はそれよりも他の者が来ないか心配で――むしろ恐怖で、顔だけ廊下に出し、バッバッと左右を確認。誰もいないのを確認すると、白猫を部屋の中に移動させ、音を立てないように戸を閉めた。
 ふぅ、とため息なんかついて、一安心する私。
 白猫は閉じ込められたことを不安に感じる様子は無く、相変わらず私の足に体と尻尾を巻きつけてくる。私は白猫の脇腹を掴み、抱きかかえて座った。腕の中でも白猫は大人しく、そっと背中を撫でてやるとごろごろと気持ち良さそうな声を上げる。私は白くてふわふわした猫の毛に顔を埋めるように抱きしめた。
 暖かくて、その暖かさが切なかった。
| 19:36 | 新しい世界で | - | - |
コエノヌシハマルク
 黒い世界。

 どんどん落ちていく。
 どんどん落ちていく。

 落下。
 落下。
 落下。

 ふわり、
 と、体が浮き上がり――


   ******


 目が覚める。
 葉にまみれた空が見える。
 空を飛んでいるようだった。
 ふわり、ふわりと体が揺れる。
 背中と膝の裏に触れる暖かいもの。
 それが腕で、私が運ばれているという事に気付くのに時間はかからなかった。 
「……ッ! 何をしている?!」
 私が男の襟首を掴みながら言う。
「何しているように見える?」
 男――ヒセンは、楽しそうに笑った。
「からかうな!」
 歯を食いしばりながらギリギリと首を絞める。
「あ、やばい。苦しい」
 笑いが苦笑いに変わるだけで、ヒセンは相変わらず私を抱えたまま森の中を歩いている。
「下ろせ!」
「うん? お前、歩けるのか?」
「歩ける!」
 即答する私を見て、ヒセンは首を傾げて何か言いたそうにしたが、結局何も言わずに私を下ろした。
 私は自分の足で大地を踏みしめた。ものの、その体勢がキツい事を実感する。
 これはそう、貧血だ。
 頭がクラクラする。吐き気もする。体に力が入らない。立っているだけでも私の体はふらふらと動いている。
「ヒセーン」甲高い、少年の声。「今にも倒れちゃいそうだよ」
 声はするのに、姿は見えない。
「コーネリアス」甲高い少女の声。「こういうのをツンデレっていうのよ」
 辺りを見回しても、それらしい姿は見つからない。
 というか、ツンデレって何だ。
「コーデリア」と、少年の声。「じゃあ、この人はヒセンに片思いなの?」
「そんな訳あるか」姿の見えない声だったが、私は答えた。「というか、誰だ? 何処にいる?」
 クスクスクス。くすくすくす。
 私を馬鹿にするかのように、笑い声が反響した。
「ねぇ、ヒセン?」笑い声の混じった少女の声。「教えた方がいいのかなぁ……。そんな事したら、この女倒れるんじゃない?」
「そうだよ、コーデリア」笑い声の混じった少年の声。「ただでさえ弱ってるのに、それに追い討ちかけちゃ可哀想だよ」
 可哀想と言われ何故か腹が立ち、何かを言い返そうとした。
 台詞は何でも良かった。ただ怒鳴り声を上げて、自分が怒っているのを主張したかった。
 けれども私の意識は、それすらも出来ないほどに朦朧としている。
「でもあえて窮地に追いやるのもいいのかも♪」
 今にもふわぁと抜け落ちてしまいそうな意識を繋ぎとめるのは、少女と少年の声。
 もうそれが、何を意味しているのかを明確に判断するのは難しかった。
「え? そうなの? コーデリア」
 不思議そうな少年の声。
「そうよ、コーネリアス。人間は追い詰められると成長するのよ」
 お姉さんぶった少女の声。
「ふぅん、そうなんだぁ〜。なら、成長させないとね♪」
 楽しそうに少年の声。
「成長成長〜ぉ!」
 楽しそうに少女の声。
 きゃははと笑う二人の声の奥に、ヒセンの声が聞こえたような気がした。
 それに構う間もなく、私の目の前に黒い物体と白い物体がひゅんと宙を舞った。
 直径三十センチほどの球体。
 黒く輝く方からは少女の、
 白く輝く方からは少年の、
 笑い声が聞こえる。
 彼らは私の頭の周りをぐるぐると回り、黒と白が交互に点滅する。
 すると、
 白く丸い物体が、ずいと視界に割り込み、
 黒く小さく円らな瞳と目が合う。
「あははっ! 困ってるぅ〜!」
 白いソレは少年の声で笑う。
 すると、
 黒く丸い物体が、ずずいと視界に割り込み、
 白く小さく円らな瞳とも目が合う。
「きゃははっ! 変な顔〜ッ!」
 黒いソレは少女の声が笑う。
 それらは明らかに人ではなくて、そもそもこれは生き物なのか? じわじわと滲むように空気中を彷徨うさながら亡霊のようなそんなイメージすら湧いてくる訳でありいやそれよりも私は、

 目の前の現実が信じられなくて、


 目の前が真っ暗になった。
| 19:08 | 新しい世界で | - | - |
キャラ設定
 随時追加。登場順っぽい。

ベアーテ
・主人公、というか、語り部。
・人間不信の女性。
・戦いの道具となってから四年目、七回目の戦で異世界へ。

律樹(リツキ)
・縁側で寝てた医者。
・脅されびびる辺りへたれかな。

銀(シロガネ)
・白猫。
・外猫だが、律樹の家の縁側に多く出没する。
・人懐っこい。
・「なぁー」と鳴く。

飛泉(ヒセン)
・戸を開けて律樹に文句言いに来た人。
・律樹とは長い付き合い。だから容赦しない。
・かなりのマイペース。何事にも動じない。

コーデリア
・黒い球体のような体。白くて丸い目。
・腹黒い性格。(何よりもまず自分!)
・双子の姉。
・コーネリアスはからかうと面白いから好き。でもうざいと思うときもしばしば。

コーネリアス
・白い球体のような体。黒くて丸い目。
・純粋というか、そそのかされやすい。
・双子の弟。
・コーデリアが大好き。いつも一緒にいる。
| 20:16 | 新しい世界で | - | - |
ソウジャナイノガシンジラレズニ
 気候からして国からは大分遠いとは理解していた。だが、私が気を失っている間にこれほどまで遠くに運ぶ事は出来るのだろうか?
 気になるのは先程のリツキという男の発言。
 私はタケの中に倒れていた。
 あれがタケだという確証は無いにしろ、タケとは恐らく逃げてくる途中に生えていた植物の事だろう。リツキが説明していた内容と酷似していたのでそう判断する。
 しかし私はあんな植物見た事がない。(そもそもあれは植物なのか?)
 なら此処はかなり遠くなのだろう。
「………」
 ごぉ、と風が唸る。
 砂埃は立たない。
 走り続けたせいで息苦しかったものの、風のせいで息は詰らない。
 はぁ、と私は荒れた呼吸を整えた。
 誰も追ってこない。
 はぁ、と私は荒れた呼吸を整える。
 あまりにも静かで、気が抜けて、立てなくなる。
 ずる、と近くに生えていた大木にもたれかける。それでも立てない私は、ずるずると座り込んだ。
 しん、と辺りは静まり返り、
 ごぉ、とまた風が鳴いた。

 しばらくの間、しんと静まり返った場所にのんびりと座っていた。
 そんな行為はひどく久しぶりのような気がしたのだが、懐かしいとかそういう感情は起きない。逆に昔の出来事のように、それこそ幻のように感じられる。
 どれくらい、そうやってしていただろうか。
 呼吸も大分落ち着き、目の前の広大すぎる街並みにようやく慣れた頃。
 ずきり、と体が痛んだ。
 そういえば怪我をしていたな、と痛みと一緒にぼんやりと思い出す。
 辺りに誰もいないことを確認して、私は鎧を脱ぎ、もう一度入念に人が居ないことを確認して、近くにあった茂みに隠れて服を脱ぐ。
 脱ぐというか、これはほどくようなものだ。布で縛るように止めてあり、ほどいてから自分で着れるか不安になってきた。
 それよりもまず問題なのは傷口で、傷が開いたのか包帯には血が滲んでいた。
『怪我人じゃん。安静にしないと』
 リツキという男は心配してくれていた。半分は恐怖から出たお世辞かもしれないが、それでもそんな言葉をかけてくれた。
 よくよく考えれば傷の手当てをしてくれたのも彼だ。(多分)味方にもそんな物好きな事してくれる者はいなかったというのに。
 そもそも。
「彼らは敵なんだろうか……」
 少なくとも、彼らには私を殺す様子は見られない。
 少なくとも、彼らには私を拘束する様子も見られない。
 それなのに私は彼らに剣を向けた。
 敵だと思い込んで剣を向けた。
 いや、本当は敵なのかもしれないが……。
 でも、
「……なんか……、悪い事したな……」
 剣を向けられ、脅えた表情を思い出すと、何だか申し訳ない気分になる。
 服を着る。鎧を着ける。途中で止まる。手。
 何だか目の前がぼんやりとしてきて、だから意識もぼんやりとしてきて、自分の不甲斐なさが嫌になって、一度道具になったらもう人には戻れないのかと涙が出て、何だかもうどうでもよくて。
 朦朧とする意識に逆らう事無く、私は目蓋を閉じた。
| 15:08 | 新しい世界で | - | - |
ニゲルノハイイガ私ハドコヘニゲルツモリダ
 男は腹の底から楽しそうに、くすくすと笑った。
「お嬢……ッ?!」
「けれどお気をつけて下さいよ? 外には変なモノが沢山おりますので」
 また、彼は私をからかう。
 その笑みの、なんと無邪気な事。
 私は彼をギッと睨みつけた。大抵の輩ならそれで言葉を詰まらすほどまで発達している私の眼力でも、彼には何の効果も無かった。
 楽しそうに笑い続ける彼に剣を向け続けながら、私は家の外へと出た。日の光を浴びているはずなのに、その光は淡くだが、蒼色に光り輝いている。見たことのない造りの家屋の奥にある、自然の緑と合間見合って、その色彩は幻想的だった。
 男に剣を向けながら、後ずさるように青味を帯びた世界へと進んでいく。
 ひんやりとして、尚且つカラリとした空気は、今までの生活からは考えられなかった。
「……ちっ!」
 舌打ちをしながら、私は走った。家屋だろう物体の並ぶこの空間は、人の住処なのだろう。そこを通れば人に――敵に見つかる。私は家屋と家屋の隙間から、森へと駆け抜けた。

 森の中を走った。
 森の中を駆けた。
 森の中を延々と走った。
 森の中を延々と駆けた。
 時には速度を落とし、
 時には歩き、
 けれども止まることなく、
 進んだ。

 此処は何処だ。
 何処だ此処は。
 このまま逃げようか。
 逃げようかこのまま。
 逃げれば自由の身か。
 自由の身だ逃げれば。

 森の中を走った。
 森の中を駆けた。
 森の中を延々と走った。
 森の中を延々と駆けた。
 時には速度を落とし、
 時には歩き、
 けれども止まることなく、
 逃げた。

 無我夢中とはこういう事か。ただ、またとないチャンスに私の胸中は高ぶった。今まで夢見ていたのだ。仕方ないと諦めていたのが実現できるのだ。
 そう、私は逃げれるのだ。

 何から逃げた。
 義務から逃げた。
 義務なのかあれは。
 あんなもの、
 あてつけの義務だ。
 おしつけの義務だ。
 私は私で義務を決める。


 さぁ、私は何をすればいい?





 蒼碧の世界が途切れ、ゴォと風が吹き上げた。
 崖。
 切り立った、高い場所。
 見通しも、眺めも良い。
 そこに広がる世界は、私が見たことの無い世界だ。

「何処なんだ、此処は」

 目の前に広がる立派過ぎる街並みに圧倒され、私は呟いた。
| 13:35 | 新しい世界で | - | - |
話が混ぜっ返されてるのでボツ。
 男は腹の底から楽しそうに、くすくすと笑った。
「お嬢……ッ?!」
「けれどお気をつけて下さいよ? 外には変なモノが沢山おりますので」
 また、彼は私をからかう。
 その笑みの、なんと無邪気な事。
 私は彼をギッと睨みつけた。大抵の輩ならそれで言葉を詰まらすほどまで発達している私の眼力でも、彼には何の効果も無かった。
 楽しそうに笑い続ける彼に剣を向け続けながら、私は家の外へと出た。日の光を浴びているはずなのに、その光は淡くだが、蒼色に光り輝いている。見たことのない造りの家屋の奥にある、自然の緑と合間見合って、その色彩は幻想的だった。
「此処は何処だ?」
 私が聞くと、男は答えた。
「東の森の隠れ里」
「東?」
 私の国は大陸で最も東にあった。
 それよりも東に森などあっただろうか?
 それよりも東には、干からびた大地しか無かったと思ったのに。
「東には、こんな所があるのか」
 ポツリと言った私の言葉に、艶っぽい声が答える。
「東の基準は、中心が王城でね」振り返ると、いつのまにかスタイル抜群な美女がいる。「その王城を中心に街があってぇ、そこではねぇー、みぃーんな可愛い服着てるのよぅ。大体の身分は着ているもので判断しちゃうから、みぃーんなはりきって可愛い服着てるの。……うふふ♪」
 私の方をじろじろと舐め回すように眺め、怪しげな笑みを浮かべる銀髪の女性。
「貴方に似合う服は何かしら……。背が高くて、キリッとしてて。そうねぇ、まるで、クールビューティ……。セルヴァーちゃんとは正反対で、お姉さん嬉しいわ。ねぇ、好きな色は何?」
「何だ……、お前」
「やっぱ、黒? 黒かしら? いっそ派手に赤とか?!」
「私は何も言っていない!」
「可愛い系より、カッコイイ系よね。パチッとしたパンツ……? あ、でもミニにロングブーツも捨てがたい……!」
 うふふふふ、と怪しげなオーラを放ちながら、私に歩み寄ってくる銀髪の女。
 銀髪。
 白ではない。銀。
 鈍く輝くその髪は、差し込む光のように青く光っている。
 そしてその瞳は、金色。
 ありえない。
 そんなのありえない。
 人間ではありえない。
 ありえないのに。

 何で目の前に実在するんだ?

「ロングスカートにヒールもいいわよねぇ……」
「俺、スリットの深いチャイナが良い!」
 今までとは比べ物にならないくらい勢いのある台詞を律樹が吐くと、
「きゃぁん★ 律樹ちゃんったら、分かってるぅ〜! でもでも、あたしはいっそ――」ずい、と私に顔を寄せてくる。
「来るな!」
 男に向けていた剣を、女へと向ける。
 剣を向けられた女性は、きょとんと目を丸くしてから、その目をじわぁと滲ませた。
「うぅ……、あたしはただ仲良くしたいだけなのにぃ……」
 お友達関係拒否されちゃったぁああぁぁ! と女はわんわんと泣き出した。
「泣くな!」
「ふえぇぇん……。怒られたぁ〜っ!」
「泣くから怒るんだ!」
 何なんだ、こいつ。
 私に何をしてほしいんだ?
「あははは」先程からかわれた時のように、男は笑っている。
「笑うな!」
 私の台詞で、男は更に大きな声で笑った。
「笑うなと言って――!」「うっさぁぁぁあああいっ!」
| 17:25 | 新しい世界で | - | - |
トノサキニハテキガオリ
 まさか背後の戸が開けられるとは思っていなかった私は、新たな敵の出現に心臓が跳ね上がった。
「来るなっ!」
 剣を背後の男に向ける。
「おい、律樹。これ、誰?」
「これって言うな!」
 あまりにも動揺していたからか、思っていたことがすぐ口に出た。
 いやそれよりも背後の男だ。(今は彼の方を向いているので背後とは言いがたいが)彼は剣先を向けられているというのに慌てた素振りも見せず、至って普通に寝ていた男に話しかける。
「というか、お前何したんだよ」
「俺何もしてないってほんと。治療しただけだし!」
「治療ついでになんかしたんだろ」
「してねぇっ! 俺の潔白は銀が証明してくれる」
 正座した男の後ろに隠れるようにして潜んでいた白猫が「なぁ!」と声を上げた。
「なら、何でお前は気が立ってるんだ?」
 スッと視線をこちらに向けられると、私は言葉に詰まった。
「……そんな事を聞いてどうする」
「質問の答えになってないぞ?」
「…………」
 私は黙り込む。
 黙りこんで、喉元に剣先を近づける。
 勢い良く腕を突き出せば、喉を貫通出来る距離。
「ほら、答えろよ」
 それなのに、彼は眉一つ動かさない。
「答える道理は無い」
 そう答えると、彼の眉根がぴくりと釣りあがる。
 気に喰わない。そう、眉根を寄せた。
「お前が刃向かう道理も無いだろうが」
 淡々とした、何事にも全く干渉されないとすら感じられた冷ややかな声が、僅かにだが、荒立った。
「お前は律樹に怪我の手当てを受けた。どうしてそれだけで律樹に剣を向ける?」
「敵だから」私は淡々と答えた。(つもりだ)「戦に乗じて人攫いとは、軍人として恥ずかしくないのか?」
「人攫いだぁ?」首を動かさず、私を視界から外さず、それでも器用に正座している男を見る。「律樹。手前、言ってることと違うじゃねぇか」
「のんのんのんッ! 俺は、裏の竹林に倒れてるのを連れて来ただけ! ノット、人攫い! むしろ、人命救助!」
「タケとは、何だ。暗号か?」
「竹は竹だろ。お前、竹知らないのか?」
「だからタケとは何だ」
 私の言葉に反応してか、廊下で寝ていた男(律樹というようだ)が説明をしだす。
「竹はこう、緑色の筒みたいな植物で、スッ! とした葉っぱが特徴的で……」
「というか、見ない顔だな」律樹を無視して、男が言う。「新参者か?」
「俺、人の顔覚えないタイプだからわかんね」
「流石だな、律樹」男はため息をつきながら器用に笑った。「新参者ならセルヴァーに報告しないとならんな」
「報告などさせるか」
 私は出来る限り声を低くして言った。
 例えそれが、目の前の男には何の意味も持たないと理解していても、だ。
「そこを退け。退かないのならば斬る」正確には突くのだが……。
 その言葉に「ひぃぃぃっ!」と声を上げたのは、その言葉とは無関係の律樹だった。
「やばいって! やばいって、飛泉!」
「どうして?」
「斬られる! お前は斬られかねない! 幾ら俺が医者だからって、流石に死体見るのは抵抗あるよ俺は!」
 最近見てないしね! とどうでもいい事まで口走る律樹。
「どうして俺が斬られなきゃならないんだよ」
 飛泉と呼ばれていた男が言った台詞は、まるで私に攻撃をしかけるような口調だった。
 私は今以上に神経を尖らせ、攻勢に備える。
 彼は、スッと、
「ほらよ」
 私に道を開けた。
「……なっ?!」
「あれ? 何、理解出来ないって顔してるんだ? そんなにも意外かな、この行為は」
「当たり前だろう!」
「そうか? お前が律樹に刃が向ける理由が無いように、俺がお前の自由を奪う理由も無い。だから俺は斬られないように道を開ける。簡単な事だろう?」
 そう言って彼は、にぃと笑った。

「お出かけの時間ですよ、お嬢様」
| 17:48 | 新しい世界で | - | - |
トニブツカリホシガミエ
「フニィァッ!!!」
 白猫は飛び上がり、私の足から数歩遠ざかり、真っ白な体毛を逆立てた。
 本来の『猫を追い払う』という目的は達成したものの、白猫が上げた声は想像よりも大きかった。
 誤算だった。
「ん、ん……?」
 すやすやと寝ていた男は目を覚まし、ぶけらとした瞳でこちらを見上げる。私は彼が驚きの声を上げるより早く駆け出した。
「な?!」男の声を後方に残し、私は廊下を右に折れ進んでいく。「ちょっ……! 待てよ!」
 待てと言われて待つ者が何処にいるのか。私は廊下を進み、その突き当たりにあった部屋へと入る。外付けの廊下から、部屋へ。部屋から、屋内の廊下へ。そしてそこから、靴の置いてある部屋へと辿り着く。
 見たことの無い履物の中に、私の履いていた靴を発見する。私は慌ててそれを履くと、履き終わった頃に、男がようやく追いついてくる。
 私は追いつかれないようにと、目の前にあった扉を思い切り押し開けた。
 ばん、という大きな音がしたかと思うと、身体が弾かれ頭がぐわんぐわんとしている。扉の前に倒れこんだ私は、視線が下がったその時に気付く。
 これ、引き戸だ……。
「おい! 大丈夫か?」
 息を切らしながら男が駆け寄ろうとする。私は反射的に、手に持っていた剣を彼へ向けた。「動くな!」
 彼の動きはそこで止まる。止まるというよりは後退するようだった。両手を肩ほどまでに上げ、表情を引きつらせて後ずさる。
「はっ? ちょ、ちょっと、待てよ。や、やめようぜ、こういうの」
 男は動揺しながら言葉を発する。その半分は、私には聞こえない。頭を打った衝撃が強かったのか、視界は暗転したりしなかったりを繰り返し、ちかちかと星が見えたりもしている。そのせいで、剣先は酷く揺れていた。
「っつーか、あれよ。君さ、怪我人じゃん。安静にしないと、ね?」
 だから剣はやめよう、せめて拳にしてくれ、と男は動転しているのかそう言った。
「……敵の言葉に耳は傾けん」
 私の言葉に、男の顔から益々血の気が引いた。
「て、敵?! 敵、って何! どーいう事?! 俺、治療! 治療したし!」
「そうか。それは助かった。ありがとう」男の表情が緩んだが、「だがそれとこれとは別問題だ」
「はぁっ?! ちょ、それ酷くない? ひでぇよ、絶対!」
 強めの口調になった男を、剣先を近づける事で黙らす。
「……す、すみません。……いや、でもね、恩を仇で返すのは人としてどうかと思うんですよ」
「黙れ」煮えくり返る感情をなんとか抑えて、「斬るぞ」
 私の言葉に男は今度こそ黙りこんだ。
「そのままそこに座れ」男は私の指図に従う。「そのまま動くな。動いたら斬る」
 そう言い、私は彼に剣を向けたまま、空いている左てで戸を開けようとした。
 瞬間。
「おい、律樹! お前さっきから何ドタバタ……」
 ガラリと開けられた戸の先にいた男と目が合った。
| 17:47 | 新しい世界で | - | - |
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